岩手・タイマグラからの便り
第2回
猫と過ごす、小さな畑の忙しい夏。
2024.07.01
小さな畑で野菜を育てています。広さは約30m四方。春から秋にかけて60種類ほどの野菜を育てています。収穫した野菜は形も不揃い、虫食い穴もあいていますが「すばらしくおいしい!」。家庭菜園は、家族の健康に欠かせない存在となっています。
岩手・タイマグラからの便り
この世界のどこか、遠くに暮らすあなたへ。「岩手・タイマグラからの便り」は、いわて暮らしの魅力を紹介するWEBマガジンです。たとえ不便でも、手間がかかっても、自分たちの理想の生き方を実現するために岩手を選んだ安部智穂さん。その日々の様子を、隔月の連載でお届けします。
ごく小さな畑ですが、作業は山ほどあって、特に6月7月は大忙しです。草取りは言わずもがな!早春に蒔いた葉物野菜の間引きも兼ねた収穫や、日に日に大きくなる夏野菜の誘引や摘芯。ポットで育てた野菜苗アレコレの定植などなど、キリがありません。お天気がよければ2、3時間は野良仕事に精を出すのですが、今年は6月から盛夏のような暑さ。日中の野良仕事は早々に諦めて、陽が傾き始める夕方にシフトチェンジしました。それでも作業を始めるとすぐに汗ビッショリ。そんな私を心配するように、ここぞというタイミングで猫たちがやってきて、足元にスリスリスリ。まるで「そろそろちょっと一休みしたらどうですか」というように。時間を忘れてつい熱中してしまう私は、いつも猫に促されて一休みです。
畑の隅に1mほどの大岩が半分土に埋もれてドンと鎮座しています。移住当初からこの岩を休み岩と呼んで、野良仕事の合間の休憩場所にしてきました。長靴も靴下も脱ぎ捨てて、裸足で休み岩にのぼり腰を下ろします。素足にヒンヤリとした岩が心地よく、寄り添う猫たちは愛らしく、紅葉の枝に引っ掛けておいた水筒の麦茶はすばらしくおいしい。野良仕事の合間に、休み岩で一休みするのは、至福の時です。
フーッと大きく深呼吸をすると甘〜い香り。あちこちで自生する野イバラが、今こぼれるように咲いていて、芳しい香りをはなっているのです。「あぁ、ホントいい香りだな。」「あれ? でもこのにおいは?バラの香りにまぎれて、かすかにあの匂いもしているような?」裏山の栗の木に目を凝らすと、「おぉ、咲いてる咲いてる咲いてるぞ」。紐状の花が黄色くほころんでいます。「とうとう咲き始めたんだな!」心が弾みます。決して好ましいとは言えない栗の花の匂いですが、こんなにウキウキと嬉しい気持ちになるのは、世話をしているニホンミツバチにとって、栗の花は大切な蜜源だからです。
今年は春から晴天が続き、蜜も花粉も豊富でした。結果、無事越冬した群れが次々と分蜂し、今は過去最高の四群にまで増えています。栗の花がたくさん咲けば、ハッチャン(ミツバチの愛称)は大忙しで、せっせと蜜を集めます。タイマグラで咲く、様々な花から集められる百花蜜は美しい琥珀色をしています。色の濃さは年ごとに多少差はありますが、栗の花がたくさん咲いた年は、より濃い色の蜂蜜になるのです。栗蜜は独特の風味があり濃厚で、鉄分も多く含まれています。「どうやら今年もたくさん蜂蜜が絞れそうね」。それに、そうして花から花へとミツバチが飛び交うことで、確実に受粉され、秋にはたくさんの栗が実ります。そうして実った栗の実は、山に暮らすたくさんの生き物の糧ともなって、森の多様性を支えるのです。
「今年の秋もきっと栗が豊作ね、ワクワク」。フワリ漂ってきた栗の花の香りに、ついアレコレ思い巡らせていると、またまた猫がスリスリスリ。今度は「さぁ、もう一仕事、頑張って!」まるでそう励ますように。「あぁ、そうだったね」と、我にかえる私。さて陽が沈むまでもうひと頑張り!です。
今年はいつもよりうんと早く夏がやってきました。以前であれば、本格的に暑くなるのは、梅雨の空ける7月中旬頃から。そしてお盆を過ぎる頃にはもう秋の気配さえ感じたものです。でも、ここ数年、夏は明らかに長くなり厳しさも増しています。季節の巡りに異変を感じずにはいられません。
愛しい春、夏、秋、そして冬が、どうぞ健やかに巡っていきますように…。そう願いつつ、駆け足でやってきた今年の夏を精一杯過ごしたいと思っています。
&iwateは、岩手での「ふだんの暮らし」の魅力を発信することをコンセプトとしています。
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