「カッコイイ」木材店へ転職
多様な働き方×林業ライフ
遠野市へ
Iターン
株式会社小友木材店・遠野工場
早川芳大さん
(宮城県仙台市出身/2021年4月に移住)
宮城県仙台市出身。東北工業大学卒業後、家具メーカーで施工管理者として東京で多忙な日々を送る。登山やキャンプが趣味だったため、自然の中での仕事を希望し、2021年に岩手へ移住。「いわて林業アカデミー」修了後、株式会社小友木材店・遠野工場で素材生産担当として勤務。(2025年度取材)
きっかけは電車の中吊り広告
「きっと面白いことができる」
本州で最も広い面積を持つ岩手県。 その県土の約8割を豊かな森林が占める、古くからの木材生産地です。県内の森林から生産される素材(原木)の生産量は、北海道、宮崎県に次いで全国3位(令和3年)。その特徴は、多様な樹種がバランスよく生育していること。特にナラ、クリ、ケヤキといった広葉樹の素材生産量は、北海道に次ぐ全国2位を誇ります。
こうした林業の未来を担う人材を育成するため、岩手県は林業への就業を希望する若者を対象とした「いわて林業アカデミー」を平成29年4月に開講しました。1年間の研修期間には、毎年15名ほどの研修生が集い、林業に関する知識や技術を体系的に習得。すでに修了生は100名を超え、それぞれが県内各地の林業現場で活躍しています。
株式会社小友木材店・遠野工場で、素材生産担当として伐倒作業と木材運搬を担う早川芳大さんは、このアカデミーの2021年度修了生です。前職では、東京都内で家具の製造販売・取付けの施工管理者として、多忙な日々を送っていました。
宮城県仙台市出身の早川さん。図書館学の専門家であったお父さんの仕事の関係で、幼少期を岩手県一関市で、10代を福島県で過ごしました。子どものころは、豊かな自然の中での外遊びや読書、そして工作が好きだったといいます。
建築を学ぶため東北工業大学に進学し、卒業後は仙台市の家具メーカーに就職。工場で製造した家具を現場で設置するまでを管理する施工管理者として活躍し、入社から3年後、東京支社へ異動します。しかし、そこで待っていたのは、倍以上に増えた仕事量と多忙な都会暮らしでした。
「帰宅は日付が変わってからで、それでも帰れたらマシな方でした。週の半分は営業所で寝泊まりしていました。」と当時を振り返る早川さん。「登山やキャンプが趣味だったこともあり、両親がいる岩手に戻って、自然に囲まれた仕事をしたいという気持ちが募っていきました。」
そんな移住の想いが高まる中、早川さんは電車内で林野庁が主催する「森林の仕事ガイダンス」の中吊り広告を見かけます。興味を持ってホームページを開いてみると、岩手県花巻市の「株式会社小友木材店」の名前がありました。
小友木材店は120年以上続く木材業の老舗企業ですが、その活動は林業だけにとどまりません。四代目社長が、惜しまれつつ閉店した花巻のランドマーク「マルカンビル大食堂」を復活させたり、体験型木育施設の「花巻おもちゃ美術館」を設立したりと、まちづくりにも熱心に取り組んでいます。「“世界で一番、『カッコイイ』木材店を目指す”という会社のコンセプトにも惹かれました」と早川さんは語ります。
会社のフォームから求人に応募し、社長とのオンライン面接へ。早川さんは入社にあたり、一つ聞いておきたいことがありました。
「本が好きでライター業にも興味があったので、副業はできるかを聞いてみました。」
早川さんの問いに社長は「ぜひ!」と即答。
「本業以外でもいろいろスキルを磨いてもらって、いずれ会社のホームページの記事も書いてもらえたら、とも言ってもらえました。今までこんな経営者に出会ったことはなかったので、今いる東京ではなく、岩手で、きっと面白いことができると期待が膨らみました。」

林業の現場で仕事中
遠野で実践する新しいワークスタイル
内定を得た早川さんは、社長からの勧めもあり、入社を一年間延期。まずは林業の専門知識を身につけるため、「いわて林業アカデミー」に通う道を選びました。2021年4月、岩手へ移住。矢巾町にある「岩手県林業技術センター」で、15人の仲間と共に一年間の研修をスタートさせます。
「研修生は、私のような社会人経験者もいて年代はバラバラでしたが、みんな打ち解け合い、一年間ずっと楽しかったです。扱う機材も樹種も多種多様で、基礎だけでなく実践的なことも学べました。」
アカデミー修了後、早川さんは遠野市に移住し、小友木材店・遠野工場の素材生産担当チームに加わりました。新人としての厳しさを覚悟して挑んだ現場でしたが、「心に余裕を持って作業することが安全につながる」という考えのもと、丁寧な指導を受け、焦ることなく、山全体を見る力を育みました。
始業時間は「同業者からゆっくりで羨ましがられることもある」という朝7時半。早川さんの主な作業は、チェンソーを使って木を切り倒す「伐倒(ばっとう)」です。多様な樹種が生育する山で、一本一本の木の個性を感じながら、「いかに早く、きれいに切るか」という作業に、今ではゲームを攻略するような楽しさを感じていると言います。
伐倒した木を採材し、山の麓まで運んだら一日の作業は終了。終業は、夏季は17時、日没が早い冬季は16時と、残業はありません。
「残業がまったくないので、夕方の時間を持て余してしまって」と、早川さんが始めたのは、副業となるアルバイト。週3〜4回は近くのスーパーで、そして月に数回は、遠野醸造が運営するビールレストランでキッチンスタッフとして働いています。林業という本業に加えて、都会では不可能だった、ワークライフバランスを大切にした働き方を実践しています。
早川さんは、こうした働き方を受け入れる機運を、遠野という街全体から感じると話します。
「街中の飲食店に一人で入ったときに、同じように一人でいるお客さんと話す機会がよくあります。ホップ栽培やどぶろくなど酒造りに来た人、馬の牧場を作りに来た人など、移住者の方も多いですし、それを応援してくれている遠野市民の温かさを感じます。一人一人の夢と行動力があふれた街だなと思います。」
早川さんが今、仕事で楽しみにしているのは、来春、素材生産担当チームに新人が加わること。中堅どころとして、さらに新しい技術の習得に意欲を燃やしています。
木材生産だけでなく、多面的な公益的機能を持つ森林を未来へつなぐ林業は、社会貢献度の高い仕事です。特に岩手県は森林面積が広い分、手入れが届いていない山も多いため、早川さんは「多くの方にこの仕事に加わってほしい」と呼びかけます。
「芽吹きから結実、そして落葉まで、木々を通して一年の季節の変化を感じられる、まさに自然度100%の職場です。私は昼食用にキャンプ道具を持ち込んで、調理したり、コーヒーを淹れたりして楽しんでいます。作業の休憩時間に飲む、山の中でのコーヒーは格別ですよ。」

副業先のスーパーマーケットで仕事中

副業先の遠野醸造のレストランで仕事中
Q&A

遠野市のお勧めの食べ物は?
やっぱり「ジンギスカン」ですね。名物は地元の人はあまり食べないと言われがちですが、遠野のジンギスカンは、本当に地元の人がよく食べます。遠野では、空気穴が開いたブリキのバケツに固形燃料を入れ、その上に専用のジンギスカン鍋を乗せるという「バケツジンギスカン」が主流です。これを一式無料レンタルしている所が多くて、私の副業先のスーパーでもサービスしています。
移住した際に利用した支援制度は?
いわて林業アカデミーの研修期間中は「緑の青年就業準備給付金」を受給しました。これは林業への就業を目指す人が、研修に安心して専念できるよう、国が給付金を支給する制度です。
遠野市にも独自の支援制度があって、働くために市内に転入した人の家賃を補助する「遠野市賃貸住宅手当等補助金」や、市内で働く人の奨学金の返還費用を補助する「遠野市奨学金返還支援補助金」などがあります。
林業への就業を考えている人にメッセージを
危険であることはそのとおりですが、それをマイナスに受け止めすぎないでほしいです。現在は機械作業が主流ですし、危険な作業を一人で行うこともありません。
夏は暑さ対策として「空調服・冷却ペルチェ」が普及しています。寒い冬も、体を使う仕事なので作業中は汗ばむくらいです。でも窓のない重機に乗る時は、やっぱり少し寒いですね。
