岩手・タイマグラからの便り
第4回
挑戦の秋
2024.11.05
さすがに朝晩はヒンヤリとしてきました。猫たちが布団に潜ってくるようになり、朝いちばんに薪ストーブを点けるのが日課に。先日の大霜では、畑に残っていた野菜の多くがトドメを刺されました。しかしデス。もう11月だというのに日中はポカポカと暖かく、今日の気温は18度。いつもより6〜7度も高い気温です。紅葉も今ひとつで、華やかに色づかぬままハラハラと散ってしまう木も目立ちます。
岩手・タイマグラからの便り
この世界のどこか、遠くに暮らすあなたへ。「岩手・タイマグラからの便り」は、いわて暮らしの魅力を紹介するWEBマガジンです。たとえ不便でも、手間がかかっても、自分たちの理想の生き方を実現するために岩手を選んだ安部智穂さん。その日々の様子を、隔月の連載でお届けします。
寒くならないと、冬支度の本気スイッチが入らず、なんと薪割りもまだ終わっていません。畑の蒟蒻芋も掘り起こさなければならないし、ビーツも収穫して保存しなければいけないし、大好きな菊の花も摘まなければ…。「今日こそやるぞ」と毎日宣言するも、なかなか捗らない冬支度。移住して30年経っても勤勉な蟻にはなれません。トホホのホ。
この気温に戸惑っているのは、私たちだけではありません。カメムシたちも、いつもとは動きが違います。
毎年のことですが、気温が下がり始めると、カメムシが我が家に大挙して押し寄せてきます。「風雪が凌げるし、ここなら暖かく冬が過ごせそうだ」とでも思うのでしょうか。今年は特にその数が多く、家の外壁は細かなドット柄に(※虫が苦手な方ごめんなさい)。家に入ろうと扉を開けると、すかさず一緒に部屋の中へブーン。外に干した洗濯物にもついているので、取り込む時は要注意です。
例年なら、気温が下がるにつれて活動が鈍くなり、各々見つけた越冬場所に潜んで一件落着となるのですが、今年はいつまでもウロウロとしています。
カメムシは種類が多く、タイマグラにも様々生息していますが、民家で越冬するカメムシは主に2種類です(タイマグラでは)。マットな茶色のクサギカメムシと、ツヤがあり小柄なスコットカメムシです。大移動開始当初は、クサギカメムシもスコットカメムシも我が家にやってきて「どれどれ、この家は過ごしやすいかな?」とウロウロ。しかし気温が下がるにつれて、ほぼ全てのスコットカメムシが川向こうの家に引っ越します。現在タイマグラには民家が三軒あるのですが、我が家は最も日当たりが悪く、いっぽう川向こうの民家は日当たりが良好です。引っ越しをするスコットカメムシは、もしかしたらこんな風につぶやいているのかも。「こんな日当たりの悪い、寒い家にはいられないや」とね。もちろん憶測ですが(笑)。妙なものですね、とどまって欲しいわけではないのに、出ていかれるのもなんだか面白くない。自然と、我が家にとどまるクサギカメムシに情が湧き「この家で一緒に冬越ししようね」そんな気持ちにさえなるのです。
嫌われ者のカメムシですが、名前を調べたり、その行動を観察し、想像力を働かせたりしてその生き様に心を寄せてみると、違った一面が見えてきます。大好き!とまではいかないけれど、そこまで毛嫌いする存在ではなくなって「まぁこの時期は仕方がないよね」とおおらかな気持ちになれるものです。
嫌いなモノや苦手なコトを、完全に排除するのは容易ではありません。「嫌いだ」「苦手だ」と、ただ拒絶するばかりでは辛いだけです。ならば受け入れてみてはどうでしょう。寄り添ってみてはどうでしょう。不思議不思議、嫌いなモノから面白さを発見したり、苦手なコトが楽しいコトに変わったりすることも少なくありません。カメムシ然り、冬の寒さ然り、山奥ゆえの不便さ然り、です。 受け入れ、寄り添うことで、「嫌い」や「苦手」からたくさんの面白さや楽しさを手に入れてきました。それが今の私の逞しさに繋がっていると自負しています。タイマグラに移住して30年、自然と身につけた私なりの処世術です。
とはいえ今年はいつになくたくさんのカメムシが、いつまでもウロウロ。受け入れられるか? 寄り添えるか? 挑戦の秋(笑)です。
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