岩手・タイマグラからの便り
第1回
ここからはじまる、暮らしの物語。
2024.05.09
5月。森は若葉色。山桜もそろそろ満開です。北緯39度、標高500m、早池峰山麓の我が家へは、春はのんびりやってきます。見上げれば裏山のコブシは花盛り。真っ白な花弁が春風にヒラヒラそよぎ、たくさんの蝶々が羽ばたいているように見えます。「コブシの花がたくさん咲いたら豊作になる」そう教えてくれたのは、タイマグラばあちゃんことマサヨばあちゃん。コブシの花に背中を押され、野良仕事もそろそろ始動デス。
岩手・タイマグラからの便り
この世界のどこか、遠くに暮らすあなたへ。「岩手・タイマグラからの便り」は、いわて暮らしの魅力を紹介するWEBマガジンです。たとえ不便でも、手間がかかっても、自分たちの理想の生き方を実現するために岩手を選んだ安部智穂さん。その日々の様子を、隔月の連載でお届けします。
コブシの花が咲くと「あぁ、今時分だったなぁ」と懐かしい気持ちになります。30年前の初春、私たちはタイマグラに移住しました。念願だった田舎暮らし。希望と喜びに心は満ち溢れていましたが、新生活はナイナイ尽くしのスタートでした。
借り受けた家は長いこと空き家だったためボロッボロ。雨漏りがひどく、床は抜け落ち、廃屋同然でした。囲炉裏に背丈ほどの木が育っていたことからも、推して知るべしです。屋根は屋根屋さんに葺き替えてもらいましたが、壁や床、その他の修繕は自力でしました。数ヶ月間は大工仕事に明け暮れる日々。ようやく畳が入り、寝転がった時は嬉しかったなぁ。
移住当初は電気もなく、電柱が建つまでの3ヶ月間はランプ生活。当然冷蔵庫もなく、食材は湧水につけて冷やしました。洗濯は川で水洗い。時々友人宅で洗濯機を借りてしのぎました。電柱が立ち、電線が引かれ、ようやく電気が通じた時も嬉しかったなぁ。3ヶ月ぶりの電灯は衝撃的に明るく、すごいすごいと大興奮。電気屋さんに「いつの時代の人?」と笑われたっけ。
電話は2年ほど不通でした。連絡方法は手紙か電報。もしくは公衆電話。でも、それほど不便を感じなかったのは、あの時代だったからですね。
生活が、なんとか落ち着くまでに2年ほどかかりました。思い返すと、よくも乗り切ったものだと、我ながら呆れるやら感心するやら。けれども不思議です。すご〜くすご〜く大変だったけれど、どれもこれも楽しかった! おもしろかった! やり甲斐があった! 心底そう思えるのです。
毎年コブシが咲くと、夫と2人、思い出話に花を咲かせます。お腹を抱えて笑った後、でもいつもしみじみ感謝もするのです、あの日々に。あの時鍛えられた生活力と、育まれた夫婦の絆は、ずっと変わらず、私たちの暮らしの礎となっているのですから。
あれから30年という月日が流れました。時代の変化はこんな山奥にも押し寄せ、驚くほど便利になりました。山暮らしの知恵も身につけ、平穏に過ごしています。でも、やっぱり毎日ワクワクドキドキしています。ゼンマイを歯ごたえよく干すにはどうする? 日本蜜蜂の分蜂群をうまく捕獲するためにどう工夫する? 花盛りのクロモジから蒸留水を採取してみよう! 等々。移住当初のアレコレと比べれば、ごくごくささやかではありますが、あの頃とかわらぬ挑戦や発見の日々です。
さぁ今年も5月が巡ってきました! どんなドキドキやワクワクに出会えるかな?とってもとっても楽しみです。
&iwateは、岩手での「ふだんの暮らし」の魅力を発信することをコンセプトとしています。
岩手にIターンした人たちの、「ふだんが、とくべつ。」を覗いてみませんか。
「岩手・タイマグラからの便り」ほか
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