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岩手県在住作家によるリレー掲載

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第16回 ましまし(2023年6月)/柏葉幸子

春になったとたん盛岡の街で目につくのが修学旅行の生徒たちだ。見かけない制服で五、六人のグループになり地図やスマホを片手に歩いている。ああ、やっと、コロナが終りつつあると思える風景だ。

この子たちは、どこから来たのだろう?盛岡で何を見るのだろう?後をついていって聞き耳をたてたくなる。いい思い出をいっぱい持って帰ってほしい。

私の家のあたりを歩いていくのは『啄木新婚の家』へ行くグループだろう。下調べをして来るのだろう。迷いもなくずんずん歩いていく。今はスマホで簡単に道案内をしてくれるから、初めての街でもそう苦労はしないのかもしれない。

ご近所の福田パンの店の行列にも修学旅行の生徒たちがまじりだす。大きなふわふわのコッペパンにあんこやマーガリンいろいろなジャム、お惣菜もはさむ。盛岡のソウルフードといわれている

何を注文するか迷っている生徒さんの前で「あんバター、ましましで」と注文する。二十円ぶん具を多めにぬってもらうのだ。ましましじゃなくても美味しいけど、一口かむとあんもバターもあふれでるましましのコッペパンは、ほっぺたが落ちるほど美味しいんだよ、と教えたつもりだ。

「私も、ましまし、いってみる」と、うなずく生徒さんがいる。よし!と思う。

私は家の近所を歩いていて、中学生らしい一人ぽっちの女の子に、「ここに電話してくれませんか?」と頼まれたことがある。スマホなどまだ子どもに持たせなかった頃だ。見かけない制服の子で修学旅行中の生徒だとすぐわかった。何かあったな!とわかるほどのぶっちょうづらだった。電話をすると、先生らしい人が、「すみませんが、タクシーに乗せて、ホテルに帰してください」とあわてていた。

何があったの?グループから追い出されたの?自分から飛び出してきたの?いろいろ聞きたかったが、むっとした顔の瞳は今にも泣きだしそうにうるんでいた。

修学旅行の生徒を見ると必ずあの子のことを思い出す。あの子にましましの福田パンを食べさせたかったなぁと思う。苦い思い出も時がたてば懐かしいだけになるのだろうが、甘い思い出の方がいい。

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