相棒のキッチンカーと第二の故郷・岩手へ
地域に賑わいを生むクレープ屋さんに
滝沢市へ
Iターン
Cafe Wagtail 店主
栗原健二さん
(東京都出身/2018年移住)
東京都出身。北里大学三陸キャンパスへの進学を機に、初めて岩手県で生活。東京に戻り数年間サラリーマンとして勤務したあと、震災後に宮城県仙台市に移住。仙台市でゼロからキッチンカーの経営を始め、キッチンカーとともに2018年に滝沢市に移住。現在は、滝沢駅構内のカフェ運営とキッチンカーの移動販売を行う。(2023年度取材)
大学進学でできた岩手との縁
「住むことが東北への恩返しに」
2021年8月に滝沢駅構内にオープンした喫茶店「Cafe Wagtail(ワグテイル)」。コーヒーとクレープのお店として幅広い世代から人気を集めています。店主の栗原健二さんは10年ほど前に仙台市でキッチンカーの移動販売をスタート。2018年に滝沢市に移住し、平日はカフェ、土日はキッチンカーの移動販売を行っています。
東京都渋谷区で生まれ育った栗原さん。中学生のころ趣味で始めたバス釣りで自然環境に興味を持ち、北里大学水産学部に入学。1年間相模原キャンパスで過ごしたあと、2年生からの3年間を三陸キャンパスのある気仙郡三陸町(現・大船渡市)で過ごすことに。
「初めての岩手は、母の実家のある福島に似ているなという印象でした。苦労したのは早口な方言の聞き取りくらいで、不便な田舎だとは思いませんでしたし、暮らす場所が変わったからと言って、人の生活が大きく変わるものではないとその時から感じていました。」
大学卒業後は、理科の高校常勤講師として岩泉町や花巻市に赴任。岩手で4年間教鞭をとり、一度東京に戻ったあとも、子ども向けの実験教室を実施する民間企業に転職し、理科教育に関わり続けました。
住む場所を再び東北に移したのは31歳の時。東北での新事業計画を知り、退職して新天地の宮城県仙台市に移住します。
「震災当時、自分がお世話になった地域の津波被害のニュースは言葉になりませんでした。ボランティアとして定期的に通うというのは自分には合わなくて、何ができるかはわかりませんが、まずは“東北に住む”ことが自分なりの恩返しになると思いました。」
力及ばず、新規事業は失敗したものの、栗原さんは仙台に残ることを選択。個人で仕事ができて参入しやすいという理由でキッチンカーを始めることに。
「調理や飲食業は未経験でした。コーヒーは好きなので、当初はコーヒーをメインに考えていましたが、気づいたらお客さんからは“クレープ屋さん”と呼ばれていましたね。」
お店の特色を出すために、価格は抑えてボリュームは出したクレープは男性客にも好評。仙台に住んで5年が経ち、キッチンカーの収益も安定してきたころ、拠点を岩手に移します。
「運営に慣れたら、お世話になった岩手に行こうと考えていました。拠点をどこにするかは岩手の友人に相談し、キッチンカーをやるのであればと、盛岡のベッドタウンとして子育てファミリーが多く、大学も多い滝沢市を勧められました。」
暮らしを変えるのは「住む場所」ではなく「人との関わり」
市内中央部からやや離れたところに部屋を借りて、2018年5月に滝沢市での生活をスタート。移住するまで滝沢市のイメージはほとんどなく、伝統行事「チャグチャグ馬コ」のことも知らなかったという栗原さんですが、嬉しかった驚きは滝沢市の豊かな農業。
「有名な滝沢スイカだけでなく、品種数も多いリンゴや、さつまいもなどクレープに合う特産品も多いです。リンゴはバターソテーにしたり、さつまいもはペーストにしてトッピングにしたりしました。」
そして積極的に進めたのが、地域の人々の輪に入ること。
「キッチンカーに大切なのが、人の集まる場所に行くこととそのための情報収集です。新規参入する自分は進んでイベントを盛り上げなければならないと、たきざわ日曜朝市は事務局にも入りました。」
たきざわ日曜朝市は、春から秋にかけて毎週日曜日に滝沢市交流拠点複合施設「ビッグルーフ滝沢」で開催する朝市。新鮮な地場産の野菜や果物が格安で並び、地元のスイーツ店や惣菜店も出店。栗原さんも若い世代ももっと楽しめる朝市にしたいと、つねに案をめぐらします。
商工会青年部を通じて関わったのは「チャグホ塾」の講師。チャグホ塾とは、滝沢小学校の1~3年生の児童を対象に放課後の子どもたちの居場所づくりとして開かれている「放課後子ども教室」のこと。栗原さんは教員の経験を活かした実験教室や、クレープ屋さんとして子どもたちと新メニューを考えるワークショップを開催。子どもたちの発案メニューは、実際にカフェで販売も行いました。
「東京から移住して、岩手でも複数の地域で暮らしましたが、住む場所が変わっただけで生活が劇的に変わることはないと思っています。生活が変わるきっかけは、いつも“地域の人との関わり”からだと感じています。」
滝沢駅内のカフェの開業も、きっかけはIGRいわて銀河鉄道株式会社の駅前に出店し、鉄道会社との繋がりができたこと。
駅の空き店舗となった場所に2021年に「Cafe Wagtail」をオープン。滝沢駅は付近に岩手県立大学と盛岡大学、それぞれの短期大学部と高等教育機関が4つもあり、副駅名(愛称)が「学園の杜」と名付けられるほど、学生の利用客が多い駅です。栗原さんも、自身の経験が少しでも役に立てばと、接客を通じながら楽しく学生たちとコミュニケーションをとっています。
「本当はもう少しのんびり暮らしたい。」とお話ししながらも、平日のカフェ運営に加えて、土日はキッチンカーで朝市や盛岡市内の商業施設に出店するなど、忙しい日々を送る栗原さん。屋号の「Wagtail(ワグテイル)」は、鳥のセキレイのこと。セキレイのように身近で、どこにでも飛んで現れるという思いが込められています。
「キッチンカーの営業許可は岩手県内一円で取っているので、呼んでもらえるなら県内どこへでも行きます。いずれ大船渡や岩泉にも出店に行きたいですね。」と、お世話になった地域への思いもお話しします。
Q&A
岩手で好きになった食べ物は?
大船渡市で暮らしていたときは、やっぱり新鮮な海産物がおいしかったです。大学では貝毒について研究していて、ホタテの養殖イカダについた「ホヤ」をとって食べたときは、「ホヤ」の概念が変わるくらい感動しました。
岩手で好きな季節は?
食べ物がおいしくなる秋が好きです。滝沢市はスイカが有名ですが、リンゴやさつまいもなど秋の特産品も多いです。三陸町(大船渡市)の秋刀魚やイクラ、大迫(花巻市)のワインや岩泉のまつたけ。その土地土地においしいものがありました。
冬の寒さと雪はまだ慣れませんが、真冬に滝沢市観光物産協会のイベントでスノーシューハイクに参加した時に見た、相の沢牧野の一面の雪原の美しさは感動的でした。
移住を考えている方にメッセージを
デメリットばかりに注目してしまうと、田舎でも都会でも住む場所を選ぶのは難しくなると思います。ここなら何ができるというメリットに注目して、その土地ならではの暮らしを楽しんでほしいです。ずっと都会で暮らしていた人が、田舎に移住したからといってすぐに理想的な田舎暮らしはできないと思うので、情報収集のためにも、積極的に地域の方々の輪に飛び込んでみることをお勧めします。