岩手・タイマグラからの便り

第9回 味に刻まれる、我が家の歴史。

2025.08.01

味に刻まれる、我が家の歴史。

週間予報を見ると、ズラリおひさまマークが並んでいます。好機到来と梅干しを干し直すことにしました。10年以上前につけた梅干しが、大きな瓶に1本残っています。滲み出た梅酢は、種に含まれるペクチンの作用で固まりプルルンルン。このままでもおいしいけれど、ちょっと試してみたいことがある。塩がふくまでしっかり干し直してから、ハッチャン(ニホンミツバチ)が集めた蜂蜜につけてみたらどうだろう? 私はしょっぱくて酸っぱい、昔ながらの梅干しが好きだけれど、家族はちょっと苦手。甘い蜂蜜梅なら食べるかも。暑い夏こそ梅干しを食べてほしいし、作ってみようと思い立ったのです。さてどうなるかな?楽しみです。

岩手・タイマグラからの便り

この世界のどこか、遠くに暮らすあなたへ。「岩手・タイマグラからの便り」は、いわて暮らしの魅力を紹介するWEBマガジンです。たとえ不便でも、手間がかかっても、自分たちの理想の生き方を実現するために岩手を選んだ安部智穂さん。その日々の様子を、隔月の連載でお届けします。

安部 智穂・あべ ちほ

神奈川県出身。1994年に夫で桶職人の奥畑正宏さんと共に早池峰山の懐、タイマグラ(岩手県宮古市)に移住。「タイマグラ」とは、アイヌ語で「林の奥へ続く道」の意味。季節の移ろいを慈しみ、豊かな日々の暮らしをインスタグラムで発信し続けています。ていねいな手仕事や、お菓子や保存食のレシピが人気です。近著に「森の恵みレシピ 春・夏・秋・冬」(婦人之友社)。2024年9月28日に最新刊「カゴと器と古道具」(婦人之友社)を上梓。/ 写真・奥山淳志

塩分濃度13%で漬けていた頃の梅干し
塩分濃度13%で漬けていた頃の梅干し。もちろんこのままでもおいしい!
夏野菜
あぁ、きれいだな、夏野菜は美しいな。目で味わう収穫の喜び。

午前中にちょっくら野良仕事。この猛暑のおかげで、夏野菜はどれもとても元気です。びっくりするほどの勢いで伸びるキュウリのツルを整理しよう。トマトも支柱に括らなければ。ハナオクラの周りの草取りもね。

酒粕アイス
これが楽しみで野良仕事にも精が出ます。酒粕アイスには黒糖ジンジャーシロップを添えて。

畑に向かう前にご褒美を仕込んでおきます。純米吟醸の酒粕と牛乳、お砂糖を混ぜ合わせたものを、アイスクリームメーカーにセットし、スタートボタンをポン。1時間後にはおいしい酒粕アイスの出来上がり。ご褒美を楽しみに、さぁ炎天下の畑へいざ出陣。 干している梅干しを一粒ポンと口に放り込んでからね。

娘が幼い頃は、手でクルクル回してアイスクリームを作る『どんびえ』を愛用していました。何せ我が家は山奥にあって、一番近いお店でも車で30分かかります。アイスクリームを持ち帰るのは無理なので、手作りしていたのです。「今日はどんなアイスにする?」いろんなフレーバーを試しました。トウモロコシアイスやアボカドアイスなんてのも試して、今も我が家の定番になっています。家族で順番にクルクル、クルクル。そうして回し続けること30分。ようやく固まったアイスクリームは、空気を含んでふんわりトロリ。「おいしいねぇ」「おいしいね」家族で味わう手作りアイスは最高のお味でした。手間はかかるけれど、だからこそ余計に、アイスクリームを食べる喜びは大きかったなぁ。

ヨーグルトアイス
ヨーグルトアイスに金柑コンポートをたっぷりと。金柑はお鍋でコトコト、煮ている間も本当に良い香り!

娘が小学校高学年になった頃、生協の共同購入を利用し始めました。注文カタログにアイスクリームが載っていて、「アイスが買えるんだ!」とタイマグラの子どもたちは大興奮したっけ。アイスが買える事をこんなに喜べるなんて、現代においてはある意味貴重な体験かも!と、私たち大人もなんだか楽しくなったものです。

アイスクリームが買えるようになったけれど、やっぱり手作りアイスもおいしくて『どんびえ』はずっと現役でした。でも、部品が壊れたのを機に電動のアイスクリームメーカーを購入。3年前のことです。材料を入れてスイッチを押せば、おいしいアイスクリームが出来上がるのでとても重宝しています。

ミルクアイス&コーヒーゼリーにノチーノをトロリ
おまけにもうひとつ、ミルクアイス&コーヒーゼリーにノチーノをトロリ。ノチーノは、ちょうど今ごろの青いクルミを氷砂糖と一緒に漬けた甘苦いリキュールです。アイスとの相性がバツグン!
仕込んだばかりのノチーノ
仕込んだばかりのノチーノはこんなに澄んでいるのに、あら不思議、だんだんと真っ黒になるのです…

アイスクリームひとつからも、我が家の暮らしの歴史が垣間見えておもしろいなぁ。たかがアイスクリームに何を大袈裟な、と言われるかもしれないけれど…。 ささやかな暮らしの営みたちは、少しずつ少しずつ積み重なって、いつしか、それぞれの家庭の歴史になります。
たかがアイスクリーム、されどアイスクリーム。アイスクリームの歴史もまた、やっぱり愛しくてかけがえのない、我が家の宝物です。

古漬けの梅干しを干し直し蜂蜜につけたこと。野良仕事の後に酒粕アイスに舌鼓を打ったこと。そんなひとつひとつもまた、積み重なって我が家の歴史になる。そしていつか愛しさという輝きを放つのでしょう。そうであってほしいと願いながら、ささやかな暮らしの営みを大切に、今日も暮らしていこうと思います。

梅酢で漬けたチョロギのおにぎり
梅干しの副産物、梅酢で漬けたチョロギのおにぎり。あれっ?なんだか梅の花が咲いたみたい!

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