岩手・タイマグラからの便り
第9回 味に刻まれる、我が家の歴史。
2025.08.01

週間予報を見ると、ズラリおひさまマークが並んでいます。好機到来と梅干しを干し直すことにしました。10年以上前につけた梅干しが、大きな瓶に1本残っています。滲み出た梅酢は、種に含まれるペクチンの作用で固まりプルルンルン。このままでもおいしいけれど、ちょっと試してみたいことがある。塩がふくまでしっかり干し直してから、ハッチャン(ニホンミツバチ)が集めた蜂蜜につけてみたらどうだろう? 私はしょっぱくて酸っぱい、昔ながらの梅干しが好きだけれど、家族はちょっと苦手。甘い蜂蜜梅なら食べるかも。暑い夏こそ梅干しを食べてほしいし、作ってみようと思い立ったのです。さてどうなるかな?楽しみです。
岩手・タイマグラからの便り
この世界のどこか、遠くに暮らすあなたへ。「岩手・タイマグラからの便り」は、いわて暮らしの魅力を紹介するWEBマガジンです。たとえ不便でも、手間がかかっても、自分たちの理想の生き方を実現するために岩手を選んだ安部智穂さん。その日々の様子を、隔月の連載でお届けします。


午前中にちょっくら野良仕事。この猛暑のおかげで、夏野菜はどれもとても元気です。びっくりするほどの勢いで伸びるキュウリのツルを整理しよう。トマトも支柱に括らなければ。ハナオクラの周りの草取りもね。

畑に向かう前にご褒美を仕込んでおきます。純米吟醸の酒粕と牛乳、お砂糖を混ぜ合わせたものを、アイスクリームメーカーにセットし、スタートボタンをポン。1時間後にはおいしい酒粕アイスの出来上がり。ご褒美を楽しみに、さぁ炎天下の畑へいざ出陣。 干している梅干しを一粒ポンと口に放り込んでからね。
娘が幼い頃は、手でクルクル回してアイスクリームを作る『どんびえ』を愛用していました。何せ我が家は山奥にあって、一番近いお店でも車で30分かかります。アイスクリームを持ち帰るのは無理なので、手作りしていたのです。「今日はどんなアイスにする?」いろんなフレーバーを試しました。トウモロコシアイスやアボカドアイスなんてのも試して、今も我が家の定番になっています。家族で順番にクルクル、クルクル。そうして回し続けること30分。ようやく固まったアイスクリームは、空気を含んでふんわりトロリ。「おいしいねぇ」「おいしいね」家族で味わう手作りアイスは最高のお味でした。手間はかかるけれど、だからこそ余計に、アイスクリームを食べる喜びは大きかったなぁ。

娘が小学校高学年になった頃、生協の共同購入を利用し始めました。注文カタログにアイスクリームが載っていて、「アイスが買えるんだ!」とタイマグラの子どもたちは大興奮したっけ。アイスが買える事をこんなに喜べるなんて、現代においてはある意味貴重な体験かも!と、私たち大人もなんだか楽しくなったものです。
アイスクリームが買えるようになったけれど、やっぱり手作りアイスもおいしくて『どんびえ』はずっと現役でした。でも、部品が壊れたのを機に電動のアイスクリームメーカーを購入。3年前のことです。材料を入れてスイッチを押せば、おいしいアイスクリームが出来上がるのでとても重宝しています。


アイスクリームひとつからも、我が家の暮らしの歴史が垣間見えておもしろいなぁ。たかがアイスクリームに何を大袈裟な、と言われるかもしれないけれど…。 ささやかな暮らしの営みたちは、少しずつ少しずつ積み重なって、いつしか、それぞれの家庭の歴史になります。
たかがアイスクリーム、されどアイスクリーム。アイスクリームの歴史もまた、やっぱり愛しくてかけがえのない、我が家の宝物です。
古漬けの梅干しを干し直し蜂蜜につけたこと。野良仕事の後に酒粕アイスに舌鼓を打ったこと。そんなひとつひとつもまた、積み重なって我が家の歴史になる。そしていつか愛しさという輝きを放つのでしょう。そうであってほしいと願いながら、ささやかな暮らしの営みを大切に、今日も暮らしていこうと思います。

「岩手・タイマグラからの便り」ほか
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