岩手・タイマグラからの便り
第3回
共に生きる。~クマと迎える森の秋~
2024.09.02
カツンコロコロ
ポトンカラカラ
木の実雨の音で目が覚める、そんな時期になりました。家の裏にミズナラの大木があり、今年はなかなかの豊作です。実のついた枝が風で揺れるたびにドングリが落ちてきて屋根に当たり、音を立てます。今はまだ「楽しい音だなぁ〜」と耳を澄ませてニッコリしていますが、次第に、カツンカツンコロコロコロコロ、ポトンポトンカラカラカラカラとうるさいほど落ちてくるように…。苦笑いしつつ、でもホッとするのは「あぁ、これでクマたちもお腹がいっぱいになるなぁ」と思うから。
岩手・タイマグラからの便り
この世界のどこか、遠くに暮らすあなたへ。「岩手・タイマグラからの便り」は、いわて暮らしの魅力を紹介するWEBマガジンです。たとえ不便でも、手間がかかっても、自分たちの理想の生き方を実現するために岩手を選んだ安部智穂さん。その日々の様子を、隔月の連載でお届けします。
草木が青々と茂る夏は、意外にも思えますが、クマにとって食べものが不足する季節です。春にはやわらかな新芽や若葉をモグモグ。梅雨時にはワイルドベリーをムシャムシャ。でも夏は食べものが乏しくなるようで、我が家の周りでもクマの気配が濃くなります。食べものを探し求めて広範囲を歩き回り、時にはやむ無く人家の周りをウロウロしてしまうのでしょう。だから夏は厳戒態勢。畑や蜂箱を囲っている電気柵の見廻りを欠かさない。果物の皮をコンポストに捨てない。森に入る時はいつも以上に大声を出す、などなど、特に注意して暮らします。
9月に入り、クマの大好物であるドングリやクルミが落ち始めると、ひとまず安心。去年は木の実全般が記録的な不作でしたから、秋も厳戒態勢を続けましたが、今年はドングリもクルミも豊作なので、家の周りでクマの気配を感じることはうんと減るはずです。 もちろん、そうは言っても決して用心を怠りませんが!
※とても幼い子グマなので、近くに間違いなく母親がいたことでしょう。こういう時は車から降りないのはもちろん、窓もあけず、なるべく速やかに立ち去るのが好ましいです。
(編集部注:動画は著者のお友達の方からご提供いただきました)
最近、よく報道される、アーバンベア。(※ 集落付近に日常的に住んでいて、あまり人をおそれないクマのこと。市街地に頻繁に出てくるため、予期せず遭遇し事故が起きたり、放置果樹を食べてしまったり、人間との軋轢を起こす。)明るい時間帯に堂々と田んぼで稲を食べていたり、スーパーの自動扉を開けて店内に入ってきてしまったり、ニュースで目にするクマの様子には仰天します。そして違和感を覚えます、私が認識しているクマの姿とは違うから…。
「どうしちゃったの?」人対クマの悲しい衝突が報道される度に考え込んでしまいます。クマの行動を観察し、その意味を考え、しっかりと対処する。細心の注意を払いつつ、そう努力すれば、軋轢は少しずつ減っていくのではないかな? そうあってほしいと願います。クマもまた、私が愛してやまないこの森で、共に生きる存在なのですから。
共に生きる、言葉にするのは簡単ですが、叶えることは本当に難しいですね。でもそう望むことを諦めたくはないし、努力していく所存です。どちらかがどちらかを力で制しても、それはまた別のアンバランスの原因になるのだから。 今年の秋は、たっぷりの実りをみんなで分け合って、平和に過ごせますように。共に生きよう!心からそう願う、そんな秋の始まりです。
&iwateは、岩手での「ふだんの暮らし」の魅力を発信することをコンセプトとしています。
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