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岩手・タイマグラからの便り

第6回 
行きつ戻りつ、春を待つ。

2025.03.03

行きつ戻りつ、春を待つ。

寒かったなぁ〜。2月はマイナス10度を下回る日々が続きました。天気予報によると「3月は例年より暖かく、一気に春めいてくるでしょう」とのこと。「ホントかな?」心底信じたいけれど、ガッカリするのは嫌だから、ちょっと疑いつつ(笑)過ごしています。
でも実際、日差しは日に日に力強さを増していて、グングンと春に向かっているのを感じます。
嬉しいな。

岩手・タイマグラからの便り

この世界のどこか、遠くに暮らすあなたへ。「岩手・タイマグラからの便り」は、いわて暮らしの魅力を紹介するWEBマガジンです。たとえ不便でも、手間がかかっても、自分たちの理想の生き方を実現するために岩手を選んだ安部智穂さん。その日々の様子を、隔月の連載でお届けします。

安部 智穂・あべ ちほ

神奈川県出身。1994年に夫で桶職人の奥畑正宏さんと共に早池峰山の懐、タイマグラ(岩手県宮古市)に移住。「タイマグラ」とは、アイヌ語で「林の奥へ続く道」の意味。季節の移ろいを慈しみ、豊かな日々の暮らしをインスタグラムで発信し続けています。ていねいな手仕事や、お菓子や保存食のレシピが人気です。近著に「森の恵みレシピ 春・夏・秋・冬」(婦人之友社)。2024年9月28日に最新刊「カゴと器と古道具」(婦人之友社)を上梓。/ 写真・奥山淳志

外仕事もぼちぼちスタート。木々が芽吹く前にキノコの植菌を済ませなければ。ノコギリを手に敷地内を歩き、キノコの原木栽培に適した木を探します。ナメコ用にハンノキとシラカバ。ヒラタケ用にヤナギ。シイタケ用にコナラを切り倒しました。枝は短く切りお風呂の燃料にし、幹は1メートルほどに切り揃えホダ木にします。ノコギリを引いたり、家まで木を担ぎあげたり、ドリルで穴を開けたり。ちょっと動いただけで汗ビッショリに。やっぱり気温も上がっているんだね。

ホダ木にドリルで穴を開け、キノコの種菌を植え付けます
ホダ木にドリルで穴を開け、キノコの種菌を植え付けます。これがけっこう重労働!

野良仕事用のシャツを新調しようかな。先日上京した際に、日暮里の繊維問屋街で買ってきた生地の中から選びました。麻布はハサミを入れるとホコリがたくさん舞うから、裁断は外でしよう。雪解けが進んだテラス脇に簡易テーブルを広げ、眩しい陽射しのもとチョキチョキ、チョキチョキ。裏の沢から聞こえる美しいミソサザイの囀りを聞きながら…。風はまだ冷たいけれど気持ちがいいね。やっぱり春を感じるのでした。

「まず咲く」が語源と言われるマンサクの花。
「まず咲く」が語源と言われるマンサクの花。タイマグラでも一番に春を告げてくれます。

「マンサクの花、どんな感じかな?」 少し弛んでグシュグシュになった雪に足をとられつつ見に行ったけれど、まだ硬く蕾んでいました。西では桜の開花がチラホラ話題になり始める時期ですが、タイマグラではマンサクの開花状況を見回るのが日課です。
ちょっと川辺にも下りてみたよ。いつものように猫たちも一緒にね。ランランラララン!機嫌良く鼻歌なぞ歌いながら歩いていたら、あっ、川に人影…。そうか、そうか、そうだった。もう釣り解禁してるんだもんね。慌てて声のボリュームを下げました。お邪魔してごめんなさい。

釣り人だけではなくこちらの方も、ひょっこり。森の常連様です。
釣り人だけではなくこちらの方も、ひょっこり。森の常連様です。
春めいてきたとはいえ、薪ストーブの周りはまだまだ猫たちの特等席。夏蜜柑の香りとともに。
春めいてきたとはいえ、薪ストーブの周りはまだまだ猫たちの特等席。夏蜜柑の香りとともに。

もちろんまだまだ寒い日も巡ってきます。三寒四温とはいかず、四寒三温ぐらいかな。でも寒い日にうってつけの仕事もまだまだあるのだ! 例えば夏蜜柑ピール作り。実家の庭で実った夏蜜柑の皮を茹でこぼし、お砂糖と一緒にコトコト煮たら、バットに広げて窓辺に干して出来上がり。香りが良く、もっちりとした食感の夏蜜柑ピールは、そのまま食べてもお菓子の材料にしてもおいしいのです。寒ければ豪勢にストーブを燃やせるし、調理もできるから一石二鳥。ピールやマーマレード作りは、毎年3月の寒い日に作るのが恒例です。

夏蜜柑のピール、完成!もちろんタイマグラでは収穫できませんが、ここでは春を告げる味覚のひとつ。
夏蜜柑のピール、完成!もちろんタイマグラでは収穫できませんが、ここでは春を告げる味覚のひとつ。
日当たりのよいところではそろそろ顔を出すフキノトウ。岩手では「ばっけ」の別名でおなじみ。
日当たりのよいところではそろそろ顔を出すフキノトウ。岩手では「ばっけ」の別名でおなじみ。

冬は冬で楽しいのに、「あれっ?これって?」そう微かにでも春の気配を感じた途端、春を待ち望む気持ちが溢れだして抑えきれなくなります。そんな想いを弄ぶように、季節は行きつ戻りつしながら、ゆっくりゆっくりうつろっていく。なんとまぁじれったいことか! でも分かっているのです。だからこそ愛しいのだと。トキメキとじれったさがいっぱいの3月です。

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