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第17回 めがね橋(2023年9月)/柏葉幸子

「鉄子さんですよね」

と読者の方に言われたことがある。鉄道好きな女子をそう呼ぶそうだ。そう言われれば、列車が出てくる物語が多い。

車の運転免許がなかった頃の私は、賢治さんの『銀河鉄道の夜』のモチーフになったといわれる『めがね橋』はどこにあるのだろう? とアーチ型の橋の上を走るSL列車を見てみたいとあこがれていた。

そして、自分で車を運転するようになってJR釜石線の宮守にある『めがね橋』を道路から見上げることができた。
「なーんだ。私はこの橋をわたるSLに乗ってたんだ」
と笑ってしまった。

小学二年生まで父の転勤で遠野市で暮らした。両親とも花巻市に実家があるので、釜石線はよく利用した。

花巻駅から乗車した時の記憶はないのに、遠野駅の記憶は鮮明だ。花巻駅は始発だ。はやく並びさえすれば必ず座れたのだろう。遠野駅は釜石線の中間にある。降りる人も乗る人も多い。指定席などなかった。遠野から花巻まで二時間ぐらいだったろうか。座席の確保は重要だった。

父は仕事の都合でたびたび花巻へ帰ることはできなかった。いつも母と弟と私の三人が遠野駅で釜石からやって来るSLを待った。

どきどきした。煙をはき地響きをたててホームに走りこんでくるSLの迫力にもだが、これから座席の争奪戦が始まるのだ。座れないこともあるし、座れても親子が離れ離れになってしまうこともある。でも、たいてい、親子で四人がけのボックス席に座れた。

釜石から一斗缶に魚をつめて行商に来るおばさん達が、列車の窓から荷物のように私と弟を受け取って座席に着かせてくれた。小さな子供を二人連れて、大きな荷物をかかえた母を助けてくれたのだろう。

席に着いた私たちは、後から乗ってくる母を呼び、おにぎりやゆで卵をひろげ、素焼きの土瓶に入ったお茶を買い、行商のおばさんたちから漬物や果物までもらうのだ。

『めがね橋』をわたるSLの写真や絵を見るたび、そのSLの中に幼いころの私や弟が行商のおばさんたちといっしょに、おにぎりをほおばっているように思う。鉄子さんだからだろうか?

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