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岩手県在住作家によるリレー掲載

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第4回 岬のマヨイガ映画(2021年10月1日配信)/柏葉幸子

今年、拙著「岬のマヨイガ」がアニメ化されて映画になり、全国で放映していただいた。

「この作品を映画にしませんか?」

「アニメ化しませんか?」

というお話はよくいただく。のだが、泡のごとくすぐ消えていく。あれっ?あの話はどうなったのだろうと思うことばかりだ。

なので、今回、無事に完成し公開までこぎつけたこの作品がなんとも愛おしい。このコロナ禍の中、よちよちと歩き出した我が子を見るようだ。映画に関わってくださった皆様がどんなに必死だったろうと感謝ばかりだ。

私は自分の本を読んでいただいた時に、

「ああ、面白かった!」

という一言が聞きたいといつも思っている。もちろん、主人公が成長してよかったとか、私もあんな所へ行ってみたいとか、という感想もうれしいのだが、まず、面白かったといっていただきたい。

この本は、東日本大震災の時、狐崎という町の避難所で、偶然知り合ったキワおばあちゃんとユイママと小学生のひよりの三人が、家族になり、それぞれの思いをかかえながら再生していくという物語だ。

三陸にこんな大変なことがあったと知っていて欲しい。人も不思議な者たちも、みんな被災地を心配しているんだという思いをこめたつもりだった。

その物語を震災の四年後に津波のあった沿岸の子どもたちに読んでもらおうとした。「面白かった」といって欲しいと思った私は考えなしで思いやりにかけ無謀だった。

お届けしようとした学校の先生方から、まだトラウマをかかえている子もいるのでと拒否された。すごく恥ずかしかったし、あの震災の時から変わらず子どもたちを守りつづけている沿岸の先生方に頭が下がった。

それでも、テレビ局が個人的に読んでくれるお子さんをみつけてくれて、感想をいただくことができた。やはり「面白かった」という感想はなかった。

私と同じようにつらい思いをしている子がいたんだと思ったとか、今いるこの場所を大事にしていこうと思うとか、切実な感想だったと思う。

あの物語を面白いと思ってくださる時が、本当の復興なのかなぁと思いながらも、がっかりして、私の拙い思いなどあの恐ろしい無残な体験の前には何の力もないのだとうなだれた。

そんな時、アニメ化しませんかというお話をいただいた。本当にうれしかった。私の思いは届かなくても、アニメにかかわってくださるたくさんの人の力で届く思いはある。アニメ化のお話をいただいてから五年はたったろうか。アニメはやっと完成し、公開のはこびとなった。

無口な監督は、ロケハンに来て岩手の土手の草の生え方までていねいに見た。岩手のどこにでもある風景が、ああ、ここ知ってるとこかな?とおもう風景が、なんともきれいだ。物語に出てくる大きな田中のお地蔵さんにも案内した。アガメという妖怪に立ち向かうため、空を彗星のように飛んでくるお地蔵さんだ。監督は、よほど面白かったらしい。無口なので直接聞くことはなかったのだけれど。

脚本家は、ユイママをユイネエに高校生の女の子に変えた。原作者として、それをどう思うかと聞かれたことがあったが、小学生のひよりを保護者としてかばう姿に変わりはないので、それはそれでよかったと思う。

キワさんは大竹しのぶさんの声で「すんぺすな」と微笑む。ユイネエは芦田愛菜ちゃんのめずらしくとがった声で物語をひっぱっていく。カッパの声はサンドウィッチマンのお二人だったり、隠し玉があるといわれていた。それは、小鎚川のカッパの声の達増岩手県知事だった!りする。岩手出身の声優さんたちもいる。

キワさんが作るきゅうりのフライ!たべたことはないがおいしそうだ。岩手の料理研究家が監修したそうだ。私もいつか作ってみようと思う。

たくさんの人の力をもらったんだ。しっかり歩いて行け!と声をかけたい。たくさんの方に観ていただきたい。

今、「岬のマヨイガ」のアメリカ出版の話があり、予定では二千二十三年に出版できそうだ。映画もアメリカでも放映してくれればいいと願っている。

映画を観てくださった方々からいろいろな感想をいただいた。一番うれしかったのは、田中のお地蔵さんのご近所さんからの、

「お地蔵さんも、よろごんでるごった」

の一言だった。

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