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移住コーディネーター

and iwate

人と自然が共生する“縄文”に見た理想
都会を離れて自伐型林業に挑戦

九戸村へ
Iターン

自営業

上野早紀さん

(神奈川県出身/2021年4月に移住)

神奈川県横浜市出身。大学生のときに日本各地を放浪。東北を自転車で3週間かけて廻り、北東北の縄文文化や自伐型林業に興味を持つ。大学卒業後は看護師として医療に従事。数年働いた後、自伐型林業をミッションとした地域おこし協力隊として活動するため九戸村へ移住。放置林の未利用材活用事業に取り組む。(2024年度取材)

生きるヒントを求めて東北の旅へ

2023年4月に活動を始めた「KUNOHE 木工女子部」。九戸村地域おこし協力隊として自伐型林業のミッションで活動していた上野早紀さんをリーダーに、九戸村に住む女性3名で結成されたグループです。メンバーは同じく協力隊としてイラストやデザイン分野で活動していた福島さんと、村内の建築会社に勤務する水上さん。村産木材を材料に、似顔絵が描かれた木製名札や、ユニークな形の積み木、柔らかな木の触感を楽しめるおしゃれなコーヒーメジャースプーンなど、思わず手に取りたくなるようなオリジナル性の高い雑貨小物を制作販売しています。
「歳の近い女性同士、私が材料を調達して、みんなにはデザインやレーザー加工のスキルがあって、このメンバーならできるんじゃないかというノリみたいなもので」と、結成理由を明るくお話しする上野さん。材料となる木材は、森を育てるための間伐で発生する不良木や未利用材。森からいただいた資源は、余すことなく利用したい――。明るい活動の根底には、上野さんの命題ともいえる「自然との共生」への思いがあります。

地域おこし協力隊として3年間の活動を終え、2024年3月に協力隊を卒業。現在は森林整備の会社を立ち上げ、山に分け入り、間伐や重機作業に取り組む日々を送る上野さん。出身は神奈川県横浜市。「部活のバレーボール部が厳しすぎて進路を考える余裕がなかった」という中学・高校時代を経て、自宅から通える県内の大学の経営学部に進学。大規模な学生ビジネスコンテストを運営するインカレサークルに所属し、 “大企業に就職して経済を回す”自分のビジョンを描き始めたころ、大学の一般教養で選んだ「大衆消費社会への問題提起」の講義で意識が180度変わることに。
「大して変わらない商品に終わりのない消費を促し続け、ほしいものを買ってもあまり満たされない。消費や経済を主体とした社会の問題点に気づき、生きる上でもっと大切な本質に目を向けたいと思うようになり、芸術や歴史などいろいろな本を読むようになりました。」
影響を受けたのは、日本全国を旅して各地の文化と生命力を探求した芸術家・岡本太郎。岡本太郎が見た暗くて貧しい東北、でもそこで脈々と受け継がれている縄文の心に触れようと、上野さんにとって初めての東北へ、自転車で旅に出ます。
「3週間をかけて東北を巡りました。特に印象的だった場所の一つは久慈市にある自然と共生した暮らしを伝承する“バッタリー村”です。あるもので暮らす。なければ作ってみる。自然と共にある調和した暮らしに魅了されました。自伐型林業を知ったのも旅の中です。森を育てる持続可能な林業と言われる自伐型林業は、自分が感じていた問題の解決方法になるのではないかと思いました。」

何度も東北を訪れるようになった上野さんは、いずれ自分が住みたいと思った場所で働きやすい職業に就こうと看護師になる道を選択。地元で看護師として働きだして2年が経った頃、心惹かれていた岩手県北・九戸村で自伐型林業をミッションとする地域おこし協力隊の募集を知り、挑戦を決めます。

山での伐採の様子

 

未経験で飛び込んだ林業の現場

大型の作業機械を使って木を全部伐採する“皆伐”と違い、有望な樹木を残してそれ以外の2割程度を“間伐”する自伐型林業。放っておくと荒廃が進む放置林に手を入れることで、森林資源と自然環境を守り、永続的に収入を得られる山へと育てていきます。
「男性と同じ重さのチェーンソーを扱ったり、丸太を車に手積みしたりと、体力的についていけないと思う作業もありました。一方で、協力隊期間中に参加した全国各地の研修では、機材を適切に扱う現場も見てきました。手積みが難しければ、あえて機材じゃなければ積めないほど長い丸太で運び出す。機材を必要としても、長いままの丸太の方が木材としての価値は上がります。自分にあった工夫を、焦らずに探していこうと思いました。」
森で働くようになってから「朝起きるのが憂鬱ではなくなった」という上野さん。生き生きと働かせてくれる森の資源を余すことなく活用したいと、曲がったり傷んでいたりして木材として出荷できない不良木を使って木工品製作を始めます。

前向きな活動の裏で、気づいたのは自伐型林業の生業としての難しさ。放置林に作業道を開き、ツル切りや下刈り、傷んでいる木を切る「除伐」など、木を伐るまでの最初の作業はほとんど収益にはなりません。しかし、それらの作業にも高額な機材が必要となります。
「生業にするのは99%無理だろう」と思っていた協力隊3年目。上野さんの活動が地元のメディアで取り上げられ反響を呼ぶようになり、「KUNOHE 木工女子部」で挑戦したクラウドファンディングも目標金額の支援を達成。村とも、必要とする補助や支援について話し合いを重ねてゆき、協力隊卒業後は合同会社ライトリソースを設立。持続可能な健やかな森づくりを目指し、放置林の整備活動を続けています。

森林が村域の75%を占め、自然豊かな広葉樹林が広がる九戸村。豊かな恵みは食生活にも。雑穀の生産量が日本一を誇る岩手県の中でも、特に雑穀栽培が盛んな地域です。
「私も畑を借りて、ひえ、もちあわ、たかきびなどを育てました。村のお母さんたちはとても上手に調理するんですけど、今のところ私はご飯と一緒に炊いて食べるだけですね。それでも充分おいしいです。」
他の地域とは艶がまったく違うと感じるという樹皮を使って、いつかはかご編みにも挑戦したいという上野さん。モノではなく、自然と共に生きるための知恵と技術が、上野さんの日々を満たしてゆきます。

作業道開設後の山

 

保育園へ木のおもちゃを寄贈

Q&A

九戸村地域おこし協力隊で良かったことは?

引っ越し費用は村が補填(上限20万円)してくれましたし、住居も村が用意してくれました。活動に必要な自動車を用意してもらえたのでありがたかったです。

冬はどう過ごしていますか?

大型機材を扱う事業体などであれば降雪の時期も作業できるかもしれませんが、私には難しいので、割り切って山での作業はお休みしています。木工製作に力を入れたり、販売会などのイベントに出展したり。あとは読みたかった本を読んで勉強にあてることが多いです。

村で暮らすためのアドバイスは?

地域の集まりに顔を出してネットワークを広げることは大事だと思います。私も「きのこを食べる会」とか、小規模な集まりによく参加しています。ただ、それにどっぷり浸かると疲れてしまうと思うので、ほどほどが良いのでしょうね。私は知り合いが誰もいないカフェでゆっくり本を読むとか、そういう時間も楽しんでいます。

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